• 最終更新日: 2019.09.01
  • 公開日:2019.09.01

【後編】小売業界で勝ち続けるオムニチャネル戦略とは?

【後編】小売業界で勝ち続けるオムニチャネル戦略とは?
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オムニチャネル成功に向けて


オムニチャネル成功に向けて

オムニチャネルがうまくいかない要因

オムニチャネル戦略は「サービス業としての小売業」の経営戦略です。それに伴って大切なのが、チャネル横断型の「顧客管理」「商品管理」「販促管理」という3本柱の実現です。オムニチャネルを取り組む企業は増え続けていますが、準備段階で初歩的な誤解と、それに起因した課題を抱えてしまう企業も少なくありません。それに伴い、効果的に運用できていない例も、少なからずあるようです。

「オムニチャネル戦略を店舗への誘客のための広告施策と捉えたり、逆にWEB通販事業の拡大だけを考慮したIT整備で十分」と考えたりするといった誤解です。仮に解けたとしても、「顧客情報の管理」がうまく出来ていないことが要因として挙げられます。オムニチャネル化へのメリットの一つとして、顧客一人ひとりのID情報や購買行動を蓄積し、そのデータをもとに適切なマーケティング施策を展開することにあります。しかし、肝心の顧客情報の一元化が進まないために、滞っているケースが散見します。それだけではありません。システム的な課題も指摘されています。顧客情報や在庫連携という膨大な情報を取り扱うシステム構築には、時間と費用もかかるため、それが障壁となって頓挫したり、スピードが遅くなったりしている例です。

EC部門と実店舗の人事評価制度の在り方も挙げられます。日本企業に多い部署の縦割り構造では、オムニチャネルで発生した売り上げを、どちらの評価にするのかといった問題が実際、発生しているのです。顧客情報の管理と活用、部署間の横断的なコミュニケーション、そして人事評価制度。これらの課題解決は、オムニチャネルの成功に大きく関係しています。

失敗する企業の多くに見られるのは、実店舗とECサイト双方の売り上げを伸ばそうとする行為です。実店舗とECサイトの役割を明確にして、どちらかの売り上げを最大化させることを目的にすれば、オムニチャネルの販促は成功により近づくはずです。

オムニチャネルを成功させるには

■オムニチャネル戦略に必要な準備
オムニチャネルの実現には、顧客管理や商品管理などのシステムを全社規模で一元化することが不可欠です。具体的にどのような準備が必要かをお伝えします。

■チャネルごとの囲い込み意識をなくす
それぞれの販売チャネルごとに販売活動を行うと、販売チャネル同士での競争に発展することがあります。オムニチャネルは、どの販売チャネルで売るかは関係なく、「どうやって買ってもらうか」を重視します。そのためには、すべての販売チャネルを連携して、組織と従業員の意識を改革する必要があります。

■ブランドイメージの統合
販売チャネルを統合するということは、すべての販売チャネルで同じイメージを提示する必要があります。ブランドによっては、実店舗、ECサイトやスマートフォンアプリ、通販カタログなど販売チャネルによってイメージを変えている場合があります。しかし、ブランドイメージの違いは、消費者に混乱を与えてしまうおそれがあるのです。どのブランドイメージが最も良いのかを絞り込み、正しいブランディングを行いましょう。

■顧客管理システムの導入
オムニチャネルは、すべての販売チャネルの顧客情報や接客履歴、購入履歴、ECサイトでの商品閲覧履歴などのデータを一元化します。そのデータを実店舗の担当者もECサイトの担当者も同じように参照することで統一された接客が可能になりますが、そのためには新たな顧客管理システムの導入が必要になるかもしれません。また、顧客管理システムの導入により、商品情報や在庫情報、ポイントプログラムなどを統合することで、スムーズな顧客対応が可能となります。

マルチチャネル・クロスチャネル・O2O・OMO


小売業界の販売チャネルの「進展」とともに、オムニチャネルとの比較を交えて紹介します。
■シングルチャネル
商品販売のチャネルが1つしかないことを指します。基本形態は1対1。「実店舗」のみで商品を販売しているケースや、ECサイトでしか商品を販売していないという場合、通販事業者と顧客の接点は1つしかありません。

■マルチチャネル
「実店舗」と「ECサイト」「カタログ通販」「テレビショッピング」など通販の業態のほか、SNSの自社サイトなど、顧客と接点を持つチャネルが複数にまたがっていることを指します。ただ、顧客接点は広いのですが、それぞれは分断されている状態です。

■クロスチャネル
実店舗を持つ会社がECサイトに進出すると、顧客は複数のチャネルを選べるようになります。個々のチャネルを連動させ、横断を可能とした状態。顧客情報の一元化は未対応。

■O2O
Online to Offlineの略、その名の通り、両者の連携はあるのですが、やはり一方通行の概念。オンラインで会員登録した顧客を実店舗に「誘導」する戦略です。効果的なターゲットは新規来店者で、効果に即効性があることが特徴です。これらからO2Oは「誘導」、オムニチャネルは「囲い込み」と比較されます。

■OMO
Online Merges Offlineの略、オフラインもオンライン起点で考えるという概念です。オムニチャネルの概念とも近いですが、OMOはオンラインもオフラインも融合された状態で、顧客のタッチポイントから得られる情報などのデジタルデータを活用して顧客にとっての最適な体験・価値を提供する考え方です。

オムニチャネルは、顧客の誘導は行いません。オンラインとオフラインの区別もつけません。目的はシームレスで便利な体験の提供です。導入の負荷は大きいですが、顧客増と囲い込みによる売上増加が長期に渡って見込まれることが特徴です。

オムニチャネル戦略の先進事例


オムニチャネル戦略の先進事例

■米で成長、オムニチャネル進化系「BOPIS」
「BOPIS(ボピス)」—-。米国のウォルマートやナイキなど、実店舗に強みを持つ大手企業が相次いでとり入れている新型ECの名称です。「Buy Online Pick-up In Store」。つまり、ネットで購入して店舗で受け取るサービス。いわゆる「クリック&コレクト」と同様の意味です。国際ショッピングセンター協会(本部・ニューヨーク)が発表した最新データによると、BOPISの利用者は成人の5割を超え、うち6割が頻繁に利用していました。米国内のEC化率向上を担う「オムニチャネル進化系」と言えそうです。

BOPISが急速に伸びている理由は、消費者と店舗事業者双方に大きなメリットがあるからです。消費者側のメリットは、

(1)送料の負担がない
(2)店内を探す手間やレジの順番待ちを省ける
(3)事前に在庫を確保できる
(4)受取日時を指定できる
(5)受取時に品物を見て、その場で返品も可能

威力を発揮しているのは2018年秋に開業した米ナイキの大型旗艦店も同様。スマホアプリで購入して、店で受け取る。すぐに売り切れる人気のスニーカーなど、オンラインで事前に在庫を確保できるのは消費者にとって大きなメリットになっているようです。店舗側のメリットとしては、店舗側のメリットとしては、

(1)レジ精算などの業務負荷が減る
(2)人件費削減が期待できる
(3)「ついで買い」を誘い、顧客の購入単価の向上にもつながる

この仕組みをとり入れ、中国でも急速にオンラインとオフラインの垣根が無くなりつつあるようです。そして日本の企業も。

■ニトリ
家具販売のニトリはネット通販で購入した商品を実店舗で受け取れるサービスを全店で始めています。在宅時間が決まっていない利用者に会社帰りなどに活用してもらう。利用者が送料を負担して送り返していた返品も店頭で受け付け。実店舗とネット通販を連携するオムニチャネルを拡大し、利便性の向上や来店につなげています。
2016年からオムニチャネルに取り組み、店舗受け取りや手ぶらショッピングなど、O2Oの取り組みを進めています。16年の資料では「オムニチャネル」という言葉を使っていますが、その後、「O2Oプロジェクト」という名称を掲げ、オムニチャネル戦略を推進しています。

■ユニクロ
衣料品製造販売のユニクロは、コンビニ受け取りをいち早く開始するなど、店舗とEC連動を早い時期に始めています。顧客情報は、ECサイトとアプリで統合。店頭で購入時にアプリを提示すれば、購入履歴が残り、ネットと店頭で購入履歴が残ります。ユニクロでも「オムニチャネル」という言葉は利用していませんが、店舗とECを連動する取り組みを実施し、業績アップに結びつけています。

■ファンケル
化粧品・健康食品の通信販売を手掛けるファンケルは、ITとオムニチャネル化で好調な業績を継続しています。同社は通販会社でありながら、全国に200店以上の自社店舗網を持ち、ドラッグストアやコンビニエンスストアなどでも商品を展開しています。IT基盤の刷新とともに顧客情報管理、通販、店舗の各システムを相次いで構築。18年にオンラインサイトをリニューアルし、店舗とWEB、電話窓口の情報を統合。また、会員向けのアプリを立ち上げ、店舗を訪れた人の購買行動を把握し、店舗とWEBの購買履歴やアクセス情報から、クーポンの発行や適切なレコメンド情報の提供なども実現しました。
また、店舗では、肌状態のカウンセリングなど、より深いコミュニケーションの場とし、ネットではお得な情報や定期購入に促すCRM施策を実施しています。同社のオムニチャネル戦略は、健康食品・化粧品の通販会社として、代表的な事例でしょう。

まとめ


これまで、勝ち続ける「オムニチャネル戦略」について、考察してきました。オムニチャネル戦略の成功・先進事例に共通していたのは、初めに「チャネルありき」で考えるのではなく、「顧客中心の視点」があったことでした。

顧客をチャネルの中心に据え、単なる利便性を超えた顧客経験価値(便利、うれしい、楽しい、心地よい)などの感覚を最大限に高めることを目指し、最も適したチャネルを組み合わせていくことが、オムニチャネル活用の成功のカギと言えるのかも知れません。

オムニチャネル化は、明日からすぐ実現できるようなものではありません。準備に数年を要した会社もあります。オムニチャネルのコンセプトは壮大ですが、企業の規模や事業形態、マーケティング戦略になどを踏まえて、できることを少しずつ始めることが大事です。

まずはできるところから。「将来の財産」としてオムニチャネル化を進めていってはいかがでしょうか。

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