• 最終更新日: 2020.10.02
  • 公開日:2020.10.02

顧客とダイレクトに繋がる小売の新時代〜オムニチャネルの行末は

顧客とダイレクトに繋がる小売の新時代〜オムニチャネルの行末は
  • EC
  • お役立ち情報

EC業界の話題では、オムニチャネルやOMO(Online merges with Offline)の重要性が説かれています。それは、急激なデジタルシフトが起こり、もはやリアル、ネットと限ることなく、企業は顧客とそれだけ直接、深く付き合えるような世界になりつつある、と言われているからです。

テクノロジーの時代だからこそ、人間的な繋がりの意味が増しているわけで、そこで、顧客との接点が生まれる「店舗」の使命は今まで以上に大きくなっています。

最近、ネットメディアの編集長を経て独立し「145マガジン」を立ち上げた石郷学氏に、最新のリアルとネットの融合の事例を紹介していただき、小売業界のこの先の未来について独自の目線で紐解いて頂きました。

 

株式会社team145 代表取締役社長 石郷学氏

 

145マガジンを立ち上げた経緯


―ECメディアの編集長を長年されていながら、今回この「145マガジン」を立ち上げられたという事ですが、どういった経緯からなのでしょうか?

石郷氏:キャラクター雑貨の専門紙の記者に始まり、一時は記者も離れて商品企画の経験を経て、「ECのミカタ」の編集長を2019年9月までやっていました。

編集長としては長く取りまとめてきたし、商品企画の経験もあるけど、果たして、自分の発想や編集で、世間で対価を貰えるだけの価値を提供できるのか、今度は、経営を通して、試してみたいと思ったのです。そして、今は個の時代。リアル店舗、またネット通販の現場を僕は知っていますので、まとめて情報を発信できるメディアを自ら立ち上げたらいいのでは、と考えたのです。

 

リアルとかネットとかなどと言っている時代ではない


―ECの成長スピードとリアル店舗の現状など、リアルとネットと両方を俯瞰して観ている石郷さんにとって、小売業界はこの先どのようになっていくと思われますか?

石郷氏:もはや、リアルとかネットとかなどと言っている時代ではない、これが僕の持論です。

すると、その企業やブランド全体の強みは一体何なのかが問われます。お客様の生活に溶け込み、また、お客様にとって自分たちの存在意義は何かを考慮して運営していくことが、すごく大事な時代になってきます。

百貨店をはじめリアルで展開する企業の多くは、そのロケーションに満足している傾向が強いです。しかし、今の時代は、ロケーションではなく、「個性」を最大化し、どうブランディングやプロモーションに繋げるか、が重要です。

「個性」は自己満足ではなく、お客様との間で培われるもの。お客様との共通の文化や価値観の中で生まれるものです。だから、例えば、ソファを売っているお店があったとして、そこはまた同じソファを売り続けようとすることではダメなんです。相手と共通の世界観を築いて、そのソファの横に添えるテーブルはどんなのがいいだろう?と考える。また、ソファの上に、クッションを提案してみたら、どうだろう?と、ソファを「派生」させていく。そうやって生活全般を提供して、そのお客様に溶け込み、リピートしてもらう工夫が大事です。

かつてのように皆がTVや雑誌などで同じ広告を見る事が前提なら、皆が集まるロケーションで良かった。ですが、今はSNSで誰もが情報を個々に収集できる多様性の時代です。要は、その発信者とお客様の間の共通認識が、かつてでいう「ロケーション」に相当するので、リアル、ネットを相互に上手く活用することが重要です。

 

オムニチャネル化された今後のリアル店舗の役割とは?


―リアルとネットの両方を活用し、企業の「個性」を生かしたブランディングやプロモーションを行うという事ですね。オムニチャネル化されていくと、今後のリアル店舗は、どのように役割が変化していくのでしょうか。

石郷氏:今後のリアルな店舗や場所は、体験できる、楽しませる、発見できる場所として、また新規顧客獲得の場として今後も重要な役割を果たします。

ユニクロ原宿店がそうなのですが、通常アパレルの店舗のように、新作や新商品を見せる場として活用される一方、定番モノをコーディネートの工夫で“新しく”感じさせるという場所のように感じます。お客様が個性を発揮し、お客様にその発見を楽しんでいただくエンターテインメントな場。デジタルは、リアル店舗の体感を存分にサポートしてくれています。

ユニクロ原宿店「StyleHint原宿」
店内の壁面に240台のディスプレイパネルが埋め尽くす。ディスプレイには、インフルエンサーやショップ店員、ユーザーなどから投稿されたコーディネート写真が並ぶ。
来店客は、そのパネルをタッチしてたくさんの「着こなし」から、リアルな「トレンド」を体感。自分にぴったりの着こなしを発見したら、その商品が店内のどこにあるのかをチェック。またQRコードを読み取り、スマホでECにアクセスし、購入も可能。

―ユニクロWebサイトより引用

壁面のパネルをタッチする度に、好みの商品をレコメンドする、そして商品の店内の陳列場所も指し示してくれる、というデジタルの情報処理能力が発揮されています。パネルをタッチしてコーディネートを見るだけであれば、別に店舗に来店せずに自身のスマホからでもできる話ですが、店舗では、気に入った商品の質感や肌感をすぐに確認することができるというメリットがあります。ネットでは、商品の質感を触って確認することはできませんよね。

コーディネート方法と商品の質感を確認できたお客様は、その場で購入する、もしくはネットで購入し自宅に配送、と選べることができるのも、利便性を加味したリアルとネットの融合が為せる顧客体験だと思います。

お祭りのような高揚感はリアルならではの話で、ファッションなのに「誕生感謝祭」では、ご当地の名産品も配って、来店きっかけを作っています。リアルでしかできない価値も大切にし、その商圏の新規顧客を掴みます。

そのように工夫して店舗に集まって来たお客様には、できる限り会員登録をしていただいて、ネットに繋げデータを収集し、追客しながら、必要に応じて、ネットもしくは店舗への誘導を出し分けていく。それぞれでの強みを生かしてアプローチを使い分けていくことができます。

―このような体験型のリアル店舗はテクノロジーの発展により、今後増えていくのかもしれないですね。ECを展開されている企業でも、このような体験ができる店舗を施策として活用されている所も増えてきているようですね。

石郷氏:そうですね。リアルなのに、レジがない店舗に最近、行きました。EC事業者が展開する、30・40代の大人の女性をターゲットとしたカラコンのショールーミングストアです。

BELLSiQUE(ベルシーク)ショールーミングストア by Mew contact(ミューコンタクト)」
カラーコンタクトECサイト「Mew contact(ミューコンタクト)」を運営する、フリュー株式会社では、大人の女性向けにカラコンの新ブランド「BELLSiQUE(ベルシーク)」を展開すべく、体験できるショールーミングストアを表参道・原宿エリアに開設。
業界初のカラコン体験ブースでは、EYE model(模型)を用意し、レンズを装着した瞳の印象の変化を体感していただくことが可能。商品は、店内にあるQRコードから、その場でECサイトにアクセスし購入することが可能。

―フリュー社Webサイトより引用

フリュー社は元々ECサイトからカラコンを始め、今やメーカーの側面も持ちます。後発ながら、カラコンを10代、20代の女性の日常使いアイテムに浸透させたのが勝因だと言われています。次なる挑戦として、カラコンを卒業する30代、40代の女性にも日常使いとして浸透させたいというのが狙いで、BELLSiQUE(ベルシーク)という大人女性専用のブランドを立ち上げました。イメージモデルに30代後半の女優である安達祐実さんを採用する辺りが上手ですよね。

そのプロモーションが次の通りです。
ECサイトを利用する際の悩みである「購入時に実物を確認できない」という点を解決し、リアルでの体験による新たな価値を提供して、新しい年齢層の新規顧客獲得に繋げることに奏功しています。

ここで感じることも、先ほど、触れた通り、お客様と企業との間に、共通の価値観や文化をいかに作るかなんです。その為には、お客様に伝えたい想いやメッセージをどういう手段を使って伝えることができるか、ネットだけの範囲に留めるのではなく、リアルな場も含め、検討することがこれからの小売りには重要です。

フリュー社が話していたのは、「取り敢えず人気者をイメージモデルに据えて、対象世代もごちゃ混ぜにしていたりするブランドも多かったけれど、皆、淘汰されました」ということ。また「お客様の日常に寄り添い、共通の文化を作るには、このBELLSiQUEのように、明確なターゲットを打ち出すことが必要なんです」との話がありました。
確かに、そうすると、リアルも、ネットも見せ方が見えてきますよね。それによってお客様の信頼と信用が増し、継続顧客になりやすいのではないかと思います。

―今後は、体験や発見ができるエンターテインメントの場として、顧客とダイレクトに繋がりを持てる場としてが、リアル店舗の役割となる。この新しい顧客体験の提供は、テクノロジーの進化によって益々進んでいく、という事ですね。
小売業界が生き残っていくには、まずは、商品に顧客との共通文化や価値で培った個性を生かす事。そして、リアルとネットの隔たりなく、顧客との接点それぞれでアプローチ方法を考える事が、長年に渡って顧客に支持される企業に成長するという事ですね。

  • 株式会社 team145(チームイチヨンゴ) 代表取締役 兼 「145 マガジン」

    主宰 石郷学(いしごう まなぶ)

    776.fmラジオ『connect』準レギュラー/Next retail Labフェロー/ジャパンEコマースコンサルタント協会 客員講師
    キャラクター業界紙記者出身で中高生とブランド立案、ペットとのペアジュエリー、モデル矢野未希子さんジュエリー企画など立ち上げ、その後メディア「ECのミカタ」編集長。  編集長を卒業し、昨年9月会社設立。小売とキャラクター専門メディア「145マガジン」創刊。

  • EC Newsアイコン

    EC News編集部

    2019年にスタートしたEC特化メディア。昨今のECシステムの様々な情報を発信します!