- 最終更新日: 2020.01.24
- 公開日:2020.01.24
【EC座談会2020】#1 年商30億まで成長させた経営者のEC事業計画の秘訣
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EC事業運営をしていると、「EC事業を展開しているものの売上が伸び悩んでいる」「新規事業の開発を命じられたものの何から手をつけたらよいか分からない」また「他社ではどのように運営しているのだろう」などとEC事業の企画・運営について身近に相談できる人がいないという悩みを持った担当者が多くいらっしゃいます。今回は各分野のアドバイザーが、EC事業を運営している2社からの疑問・相談に答える形で匿名の座談会を実施しました。
目次
はじめに
ファシリテーター尺田(以下、尺田):
それでは、事前に頂いている田中部長のご相談でもあり、お二人のEC運営の課題点などを踏まえながら、5つのテーマに分けて進めたいと思いますがよろしいでしょうか。
- EC事業計画の重要性と計画立案(KGI*+KPI*)、運用体制のポイント
- EC事業を進めるための基本となるECシステムの選定ポイントと連携システム
- 新規顧客獲得のマーケティング施策の設計・運用ポイント
- 顧客になって頂いてからのCRMの設計・運用ポイント
- EC事業と顧客とのリレーションを支えるバックオフィス業務とフルフィルメント
事業計画時に、商品開発・コミュニケーション設計を一緒に検討していくことが必要
尺田:
では、サブスクリプションビジネスの新規事業の展開をご検討されている田中部長のご相談から始めていきましょう。
相談者 田中部長(以下、田中):
弊社としては、新規事業ビジネス展開を検討していますが、何せ全く専門外なので、事業計画の立案や事業推進方法から教えて頂けますでしょうか。
アドバイザー滝沢(以下、滝沢):
私も新規立ち上げの際は、知人からアドバイスを頂いてExcelを用いて計画を立てました。でも、後で気づくのですが、これは数値計画であって顧客を見た行動計画になっていませんでした。サービスローンチ前の基本的な業務プロセスチェックや、運用開始後に次々と現れる課題への対応に、忙殺されていました。
結果として、各事業のフェーズや、広告、フルフィルメントなどの運用テーマに応じて、適切なシステム・ツール、外部パートナーを選定する重要性についてはあとから気づかされたと思います。すべてを網羅する安いシステム・ツールは無いので割り切りは必要ですね。
アドバイザー吉村(以下、吉村):
事業計画については、滝沢さんの仰ったとおりExcelでの数値計画は最後で良いかと考えています。事業計画に必要なKGIやKPIは基本的なベンチマーク数値があるので、そこに寄せて改善していくことになります。先ずは、顧客ペルソナを仮定し、その顧客の課題に対して自社のリソースを活かした商品・サービスを設計して、最良なコミュニケーション(マーケティングとCRM)を取る、この一連の流れをデザインすることが必要です。商品・サービスありきで、あとからコミュニケーションの取り方を考えても、顧客の心には届きませんし、顧客数も増えません。よく言われるプロダクトアウト視点になっているからです。
従って、「利益率の高い商品・サービスを顧客に提供できる→差別化→LTV*向上」を念頭においた事業モデルの構築が必須です。つまり商品開発、コミュニケーション設計を一緒に検討していくことが必要とされます。
顧客データを経営部門だけではなく直接各運用担当者が「見える化」して、“長期的にコミュニケーション設計を改善すること=CRM”に基づいて、顧客にとって共感頂けるような自社の商品・サービスのストーリーを伝えることが重要です。これらは、ブランディングに大きく貢献します。
滝沢:
事業計画では、PL(売上と経費と利益)はみなさん意識されるのですが、BS(在庫)と、CF(現金の入金と支払い)の関連性を見出していないことが多々あります。
具体的には、新規の獲得費用と継続率とCPA*を掛け合わせてExcel表を作成しがちですが、実際に商品供給体制が間に合っていなければ、次回の商品の納入までお届けするものが無いですし、売上も立ちません。また、CPAに合わせての顧客数が増えなければ在庫は減っていきません。さらに、CPAを補うまでの、利益ベースのLTVに至るまでの、F(購買回数)まで顧客数を維持するのは、定期回数縛りに顧客が警戒感を抱くようになった昨今では、益々大変です。
商品軸で考えるのではなく顧客軸で捉える
田中:
ありがとうございます。生産計画の件は肌感覚として理解できます。よろしければ、KGIやKPIについてもう少し具体的に教えて頂けませんか。
吉村:
はい。田中部長は会社中核の管理者として、これまでどのような指標を管理してこられましたか?
田中:
トップラインとして売上です。そして利益です。
吉村:
では、一般的に売上はどの要素の掛け算で構成されますか?
田中:
売れた商品の数と、いくらで売れたかの実際販売単価ですかね。
売上=商品数×販売単価
吉村:
そうですね、そのようにお答えになるのが一般的です。しかし今回御社が展開されるダイレクト事業は、商品軸で考えるのではなく顧客軸で捉える必要があると考えます。基本のKGIは「売上=顧客数×(購入価格(または利益)×購入回数(回転率・頻度))」がオススメです。また購入頂いた顧客の数が重要なKPIになります。ここから、各要素をKPIツリーとして因数分解していくのですが、こちらは詳細を語ると長くなるので今回は割愛します。
滝沢:
私が事業展開で気にしているのは、CPAとLTVでした。各事業フェーズや広告展開で必要としていたKPIは、施策の展開や媒体チャネルとでマーケティングでコンタクトできる顧客と顧客の購買までの各フェーズの設定などで、同様の数値でも見方、評価が変わってきますので、また折に触れてご説明しますね。
事業面で基本の数値は、新規顧客数とそれに関わる広告宣伝・販売管理コスト、顧客の継続率、サブスクリプションの場合は離脱率も含めます。離脱防止のための顧客コミュニケーションコストも忘れがちですが、重要な指標です。バックオフィスの指標としては、「決済費用=手数料+不良債権額」「トータルの配送コスト=配送費+返品コスト+在庫コスト」です。
事業全体の運用管理コストについては、組織体制や導入するシステムによって運用手順とコストが大きく変動するので特に注意が必要です。
相談者 児嶋社長(以下、児嶋):
そうですよね。さらに詳しく教えてほしいのですが、弊社では、3年で7憶円まで売上を拡大してきました。ここから中々売上が増えない状況です。
3年前とは違い、広告の出稿でCPAがどんどん上がっているため、新しい媒体メディアや広告などをデジタルエージェンシーから提案を受けたり、無料セミナーなどで勉強したりしていますが、追加ツールの導入や現状のECシステムの対応状況、PDCAを回すための分析レポートの設定、実際の運用教育や運用工数など課題は多いです。それらを人的リソースや月額運用費用の面から収支計画を立てると躊躇してしまいます。どのように進めていくのが良いものかアドバイスいただけますか?
滝沢:
そうですね。それでは、新規顧客の獲得フェーズと、顧客維持のフェーズに分けて順を追ってご説明しましょうか。
尺田:
それでは、新規顧客の獲得や、顧客維持・継続=CRM、バックオフィスについての詳細の相談とアドバイスを頂く前に、先ずはそれを支える為のECシステムの全体仕様や各フェーズで使用・連携する外部システムなどについて、機能と運用視点について整理して行きましょう。
※KGI = Key Goal Indicator の略で、「経営目標達成指標」を指す。
※KPI = Key Performance Indicator の略で、「重要業績評価指標」を指す。
※CPA = Cost Per Action の略で、「顧客獲得単価」を指す。
※LTV = Life Time Value の略で、「顧客生涯価値」を指す。